文部科学省が作成した「国語の指導におけるICTの効果的な活用」についてご紹介いたします。
国語の指導におけるICTの活用について
https://www.mext.go.jp/content/20200911-mxt_jogai01-000009772_01.pdf
①新学習指導要領上の位置づけと、全校種に共通した ICT 活用のイメージ例
平成29年告示の小学校学習指導要領、第2章第1節国語の「第3指導計画の作成と内容の取扱い」の2では、「第2の内容の指導にあたっては、児童がコンピュータや情報通信ネットワークを積極的に活用する機会を設けるなどして指導の効果を高めるよう工夫すること」と示されています。
こうした規定は、小学校だけでなく中学校・高等学校でも同様となっております。
このように新学習指導要領では、小学校・中学校・高等学校を通じて、国語科における ICT の活用について明確に規定がなされています。
なお、ICT の活用はあくまで手段であり、活用にあたっては育成を目指す資質・能力との関連を明確にすることが重要であることにはご留意いただければと思います。
先ほどの規定では、「第2の内容の指導にあたっては」という言葉がございました。
国語科の「内容」は、【知識及び技能】と【思考力、判断力、表現力等】から構成されており、後者は「A話すこと・聞くこと」「 B 書くこと」「C読むこと」の3領域から構成されています。
国語科の指導の改善・充実を図る観点から、これらの各領域において学習過程がこのスライドに示すように一層明確にされ、各指導事項が位置付けられています。
これらの学習過程は、必ずしも一方向、順序性のある流れではなく、常にこの流れに従って学習が行うべきということではありませんが、ICT の効果的な活用についてもこの学習過程を踏まえて活用の場面を考えることができるのではないでしょうか。
例えば ICT の活用場面として、「情報を収集して整理する場面」「自分の考えを深める場面」「考えたことを表現・共有する場面」などを挙げることが考えられます。
先ほど挙げた各場面について、 ICT 活用イメージの例
「情報を収集して整理する場面」では、インターネットを活用して学習課題に関連する情報を調べて、内容に応じて整理することなど
「自分の考えを深める場面」では、自分で考えたことを画面上の付箋に書き出して、その付箋を目的や意図に応じて分類することなど
「考えたこと表現・共有する場面」では、カメラ付き端末等を活用し、スピーチや話し合いの様子を録画・再生して自分の話し方を確認することなど
「知識・技能の習得を図る場面」では、古文や漢文等の教材となる動画を視聴して、言葉の響きやリズムに親しむことなど
「学習の見通しを持ったり、学習した内容を蓄積したりする場面」ではモデルとなるスピーチの動画を視聴し、学習の見通しを持つことなど
②ICTを活用した授業事例
1人1台端末活用について中学校の事例
これは「関心のある事柄について投書を書く」という第3学年の書くことの単元です。
関心のある事柄から新聞に投書する題材を決め、各自文章作成ソフトで下書きを入力します。その下書きをグループで読み合い、コメント機能を用いて確認し合います。
その上で、投書にふさわしい表現について考え、読み手の立場に立って、目的や意図に応じた表現になっているかを確かめながら校閲機能を用いて推敲し、希望者は投書をデータで投稿するというものです。
こちらは、コメント機能使用した活用のイメージになります。左は、「生徒P」 が書いた下書きです。赤枠のコメントは、書き手である「生徒P」のものです。
自分で下書きを読み直して気づいた点を書き留めたり、自分の下書きに対する友達のコメントを読んでさらに気づいた点について書いたりしています。 緑の枠が友達のコメントになります。
コメントを入力する際は、 気付いた点を入力する際は、文章全体をどのように整えたいかを「~がわからない。だから~したい。」などのように入力することを指導します。
・友達の文章にコメントする際は氏名をさせます。
コメントの意図を尋ねたりよりよい表現を互いに助言しあったりする際に有効です。また教師が、個々の生徒の学習状況を適切に把握する際にも役立ちます。
こちらは下書きを検討した後、校閲機能を用いて文章を修正している様子のイメージです。コメントを踏まえて、削除したり内容を追加したりしている様子がわかります。
このような学習を進める際には、
【コメントを踏まえ、自分の文章を改めて読み直し。自分の考えがよりよく伝わる文章になるよう適切に修正すること】
【コメントの適否を吟味し、適切に反映させることを指導すること】が大切です。
また、教師も一緒にコメントに参加したり、フィードバックにコメント機能を活用したりすることも考えられます。
一人一台端末を活用することで、教師は個々の生徒の学習状況を時系列で確認することが容易になったり、生徒は長いスパンで学習を振り返ったり、具体的な見通しを持ったりすることができます。
その他の活用事例
小学校、高等学校の事例を用いて領域ごとにそれぞれ一つずつご紹介します。
小学校の事例
第5学年及び第6学年の「 A 話すこと・聞くこと」の指導事項に、「ウ.資料を活用するなどして、自分の考えが伝わるように表現を工夫すること」があります。
このことを指導するにあたり、例えば「提案の練習をお互いに見たり聞いたりする活動」を通して提案するものの魅力が相手に伝わる表現の工夫を考える場面で ICT を活用すること」が考えられます。
写真は、自分たちで作ったおもちゃの魅力が伝わるように実物を使って提案する練習をしている様子です。
このように、
タブレット型端末等を使って班員同士で提案の練習の様子を撮影し合いその動画を実際に見ながら、実物の提示や実演の仕方の良さや課題等を伝え合うこと
動画を使って各個人で振り返ったり、教師が全体指導の材料として活用したりすること
が効果的な活用の例として考えられます。
第5学年及び第6学年の 「B 書くこと」の指導事項に、「エ.引用したり、図表やグラフなどを用いたりして、自分の考えが伝わるように書き表し方を工夫すること」があります。
このことを指導するにあたり、例えば身近な題材から決めたテーマを基に、読み手が納得するように引用したり、データを加えたりしながら意見文を書く場面で ICT を活用することが考えられます。
写真は、インターネットを活用して関連する情報を集めている様子です。
このように、インターネットを活用するなどして集めた関連する情報を用いて意見文を書くことや、単元の途中で学級の中で工夫が見られる例を紹介しながら教師が全体指導することなどが効果的な活用の例として考えられます。
第3学年及び第4学年の 「C 読むこと」の指導事項に、「ウ.目的を意識して、中心となる語や文を見つけて要約すること」があります。
このことを指導するにあたり、例えば「説明的な文章を読み、要約に必要な語や文を見つける場面」で ICT を活用することが考えられます。
写真は画面上で説明的な文章にマーカーを引いている様子です。
このように、タブレット型端末等を活用し全文を一覧できるようにした説明的な文章について内容の中心だと考えた語や文に画面上でマーカーを引き、文章全体の中で自分が選んだものの場所を確認する。
また、自分が選んだものと友達が選んだものの相違点や共通点を視覚的に捉えることや、それらの語や文を選んだ理由について友達と交流し、自分がマーカーを引いたものを再検討し必要に応じて画面上でマーカーを引きなおすことなどが効果的な活用の例として考えられます。
高等学校の事例
「国語総合」では、「話すこと・聞くこと」の指導事項エとして、「話したり聞いたり話し合ったりした事の内容や表現の仕方について自己評価や相互評価を行い、自分の話し方や言葉遣いに役立てるとともに、物の見方、感じ方、考え方を豊かにすること」が示されています。
このことを指導するために、例えばグループの話合いや各自の発表の様子について自己評価や相互評価を行い改善点などを共有することが考えられます。
その際、まずタブレット型端末等を用いて活動の様子を録画し共有フォルダに保存し、その後、各自がその映像を確認し相互にコメントを付したり、クラウド上で意見交流したりしながらその結果を共有することが考えられます。
さらに、改善に向けてグループ全体でまとめて発表原稿をクラウド上で共有することも効果的であると考えられます。
高等学校の「国語表現」では、指導事項ウとして、「主張や感動などが効果的に伝わるように、論理の構成や描写の仕方などを工夫して書くこと」が示されています。
この事を指導するために、例えば卒業記念品などの企画について、各自でその条件や観点を考え、論理の構成を工夫しながら提案書を作成することが考えられます。
その際、まずタブレット型端末等のシンキングツールを用いて各自が考えた意見をグループ共有機能によって交流し、あるいは家庭で各自が内容を検討し端末等や手書きで具体案をまとめた後、クラウドに提出し授業で画面共有しながら改善点などについて交流することも効果的であると考えられます。
高等学校の「古典 B」では、指導事項ウとして「古典を読んで、人間・社会・自然などに対する思想や感情を的確にとらえ、ものの見方、感じ方、考え方を豊かにすること」が示されています。
このことを指導するために、例えば古典を読んで紀行文の中で登場人物が旅した経路など各自が関心を持った様々な情報を調べることにより作品の世界を具体的に想像させ、古典への興味・関心を喚起することが考えられます。
その際、文章を読んで関心を持ったテーマを自ら設定し、タブレット端末等を用いて様々な情報を収集し、文章中の出来事や人物の言動の意味や背景などを考察することが考えられます。
さらに最終的にまとめた意見文や振り返りを生徒が共有フォルダに提出し共有することも効果的であると考えられます
③コロナ過における臨時休業期間中のICT利活用
小学校について事例を二つ紹介します。
いずれの事例もクラウド上に学級ごとの共有スペースがあり、これまで授業等で活用してきた学校のものです。
低学年の「春を感じた時の事を伝える文章を書く」学習の事例
児童は、教師が投稿した学習課題を提示する動画を視聴したり、学習課題に沿ってノートに書き出したものを写真に撮って提出したりすることなどを通して 国語の学習を進めていきます。
動画は、児童が視聴しながら教師と一緒に学習に取り組めるよう配慮しています。
提出された写真を確認した教師が、集まった言葉を紹介したり、必要に応じて個別に指導したりすることで、児童は文章を書くために適した材料を見つけて行きます。
低学年では、ICT を活用するといっても機器の複雑な操作や双方向でのやり取りは簡単ではないと考えられます。
この事例では、児童がクラウド上に投稿する場面を一度のみとしています。
高学年の「読むこと」学習の事例
教師が提示した学習課題に沿って、児童が本文の描写に注目して登場人物の関係や心情の変化について考えたことを投稿します。
児童が投稿した内容を踏まえて、教師は個別にあるいは全体に対して指導していきます。また児童同士でも、他の児童の投稿をもとに意見を述べあったり互いに質問したりするなど交流を行います。
臨時休業中においても、ICT を活用して教師と児童、児童同士の双方向の交流を行うことで児童は登場人物の関係や心情などを描写をもとに捉えていきます。
中学校事例紹介
一人一台の端末を所有しているA中学校
A中学校では、休業期間中の「基本的な学習の流れ」を国語科で決め この流れに沿って学習を構想しました。
具体的には、動画を配信し、開始から終了まで ICT を活用して学習指導進めています。
この流れに沿って行なった「読むこと」の単元、「書き換えを通して深く読もう~「故郷」を読んで人間や社会などについて考える~」をご確認ください。
送付された資料上に直接書き込んだり、文章作成ソフトを用いて書いた文章をグループ内で交流したりするといった学習を行っていること、学習の成果を ICT で提出していることがわかります。
なお、休業期間中に ICT を活用して学習指導を行う場合も吹き出し内に示した内容を意識して単元を構想することが大切です。
各家庭にある機器等も活用し、一人一台の端末を確保して対応した B 中学校
B中学校では、 「Web 会議ツールと動画」「見逃し配信」などを活用し、目的に応じて ICT の機能を効果的に使い分けて学習を進めています。
左側に示した、書くことの単元「言葉で残そう、私の想い~表現の効果を考えながら短歌を作る~」をご覧ください。
WEB会議ツールを用いて、学習の狙いなどを説明し学習の見通しを持たせた後ワークシートつまり紙面上で学習を進める場面、オンラインで交流する場面を分けて学習を進めています。
また推敲の場面では、メールを用いて相談を受け様々な生徒の学習の状況に対応するための配慮がなされています。
双方向性という ICT の特徴を使って、適切に指導している一例と言えます。
これからも国語科が目指す資質能力を一層効果的に育成することができるよう、学習指導の基盤的なツールの一つとして ICT の活用を進めていただければと思います。